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飯蛸(イイダコ)の一生 [独白]

★日曜10時台のTV「世界まる見え特別編」で、飯蛸(イイダコ)のドキュメントが紹介されていた。韓国TV局の製作になるもの。

★韓国では鍋物の食材として親しまれているイイダコ。日本でもおでん種になったりしている。

★大人(成体)で体長20㎝程度の小さな彼等の寿命はたった1年。そんな短い間に、一生の仕事を全うしなくてはならない。まさに濃厚な生だと、TVを観ながら思った。

★韓国はテアンなる町の沿岸の浅い海で、母ダコに守られながら、名前の由来である透き通った飯粒みたような卵の房から、次々と沢山の子ダコが生まれてくる。体長1㎝。親と同じ姿で生まれた彼等は、小さな8本の足を懸命に動かして、これから8箇月間、大人になるための旅に出るのだ。

★成熟するまでの間、蟹やヒトデに食われたり、魚に襲われたりして、生まれ故郷に戻るのは、沢山生まれた子供たちの中の、ほんの一握り。

★こうした艱難辛苦を乗り越え、立派に成長したイイダコたちは、異性を求めて生まれ故郷の沿岸の海に戻ってくる。メスをめぐるオスたちの、凄まじいまでの闘争が、そこで繰り広げられる!

★彼等はくんづほぐれつ、締め付けあい、互いに相手の息の根を止めようと必死。片がついたら、負けたオスは魚や蟹やヒトデの餌食となる…。

★勝ったオスは、8本足を膜ごと思いっきり広げて、メスを包み込むようにして抱く。その際、オスは自分の足のうち、一本の先端についている生殖器をメスに挿入して、交尾する。生殖器からメスの体内に入れられた精子とメスの卵子が合わさり受精する。このシーンは実にロマンティックで、かつ、どこか官能的でもあった。

★自分の体内に入っている卵を受精させたメスは、ほどなくオスと別れ、適当な隠れ家(このドキュメントの場合は、海底に転がっている大きな二枚貝や、法螺貝と思しき貝殻)を見つけ、その中に入って産卵。その際、メスは自分で緑の海藻を使ってこよりをつくり、その上に卵を結びつけるようにして産む。やはり海中無脊椎動物の中では、最も高い知能をもつといわれる蛸類だけあって、よく出来た産卵方法だと思った。

★ここから母親の命がけの子育てが始まる。小さなイイダコの、生涯最後のクライマックス!赤ちゃんが生まれてくるまで、母親は飲まず食わず、それこそ「不眠不休」で新鮮な水を卵の塊に送りつづける。

★母の漏斗のような出水口から送り込まれる、新鮮な海水は卵の中に胎児の姿を形作らせ、やがて透き通った飯粒のような殻の中に、子ダコの姿がくっきりと見えるようになる。こうなるといよいよ誕生も間近い。

★しかし好事魔多し、赤子の誕生までもう少しというところでも、危険は避けてくれない。愛の季節にパートナー探しに失敗したと思われる、複数のオスのはぐれダコが、孵化間近の卵を抱える母親に近づき、交尾を迫らんとあっちこっちから襲い掛かってくる。危険を感じた母ダコは思わず卵のそばを離れてしまう。

★そのとき、あまりのことにびっくりした子供たちが、十分に卵の中で成熟しきらないまま、卵から出てきてしまった!母親がいなくては、赤ちゃんはこの先生きていかれない。ヒトデに食われてしまったら、一巻の終わり・・・。

★急いで子供たちの元に戻ろうと、必死にオスたちを振り切ろうとする母親。食い下がるオスたち。・・・寸でのところで男たちを振り切り、子供たちの所に戻ると、母ダコは再びいつものように子供の世話を始める。ここまでの一連のシーンが観ていて一番緊迫したなぁ。子供たちは、まさか・・・このままヒトデに食われてしまうのではないか、と心配してしまった。

★さて・・・子供たちにこれまで新鮮な酸素入りの水と愛情を注ぎ込んできた母ダコ。彼女に生涯最後の瞬間が訪れようとしているシーンで、子供たちが勢いよく卵の殻から抜け出して、小さな足を懸命に“キュパキュパ”と言った感じで懸命に泳ぎだしていく。

★次々と生まれては大海原を目指していく子供たちの旅立ちを全て見届けると、母親の命はようやく尽きる。魚に食べられるシーンでは、大きく息をしながら、己の死を静かに受け入れて食われていく母ダコの姿に、死に行く者の悲哀と、生死の厳粛さを感じた。


★道端の雑草の命のように短い一生のイイダコであっても、懸命にその短い一生を生き抜き、彼等なりに完全燃焼しきって死んでいく。その姿に、『懸命に生きる』ということは、我々にとって何なのか、思いをはせてみたくなる、そんな番組だった。
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